「ダイヤモンド業界騒然の「若いダイヤ」 オランダの学者が発見」というForbes JAPANのネット記事(2017/10/23)に明らかに誤った記述があり驚いた。この記事はヤフーニュースや一般消費者のツイッターやブログに多数転載されていて、誤った情報でも一旦配信されるとノーチェックで流布されるネット記事の問題を改めて感じた。

誤ったダイヤモンドの知識が広がるのは本意では無いので本稿で正したい。

誤った記述があるのは以下の部分。

‘ダイヤモンドの生成には、極度の高温と高圧が必要とされる。これまで、そのような環境は地球誕生初期の地中深部にのみ存在すると推定されてきた。’

これを読むと、ダイアモンドは「地球誕生初期の地下深部でしか生成されなかった」ということになるが、もちろんそんなことはない。

ダイアモンドの成分はありふれた元素である炭素だから、圧力と温度が適切な環境(地下深部)に炭素が存在すればダイアモンドが生成される可能性があり、そのような環境下でダイアモンドはありふれた鉱物だろうし、今現在生成されているダイアモンドもあろう。もし仮に地下深部の鉱物を自在に採掘することができるならばダイアモンドの希少性は失われ1ctのダイアモンドは庶民には高嶺の花といった状況は一変することだろう。

しかし実際に地下深部のダイアモンドを採掘する術が無い以上、人は太古の地殻変動によって地下深部から新幹線並の速い速度(ゆっくり地表に運ばれたのでは移動中に炭素に戻ってしまう)で地表に湧昇(わくしょう)してきたダイアモンド原石を探す他はないのだが。

誤った記事の原因は誤訳だろうとForbes本家の英文サイトを読むも同じことが書いてある。そこで当該記事の出典であるネイチャーに掲載された論文に、権威あるネイチャーの記事に誤りがあるとは考え難いがと思いつつ目を通した。

やはりネイチャーに掲載された論文に誤りはなく、誤った記事の転載元と判断した箇所は次の通り。

Precise dating of diamond growth is required to understand the interior workings of the early Earth and the deep carbon cycle.(「ダイアモンドが生成された時期の正確な年代測定は、初期の地球内部の状況や地下深部における炭素循環を理解する上で必要なことだ。」翻訳 福本)。

10年ほど前にGIAのGGプログラムの教科書が大幅に刷新された際、日本の学生向け翻訳の大部分は私を中心にした弊社のチームで担当をさせて頂いたから、私はこの手の話のプロである。しかし宝石の専門家でなくとも、ダイアモンドが「地球誕生初期にしか生成されなかった」とあれば、「あれ、それってなぜだろう?ちょっとおかしくないか?」と気がつくべきである。

記事を書き、ボタンを押せばその情報は直ぐに多数に到達するのであるから、大手ニュース配信会社は、情報の正確性に一層の努力をして欲しい。

ダイアモンド原石が結晶化する場所

ところで、天然ダイアモンドが生成される地表下の深度については諸説あるが、いずれにせよ地表下200kmまでのマントル上部といわれる。

また稀に地表下400kmを超える深部でも結晶化するダイアモンドもある事が分かっている。

その他に、2017年1月に科学誌「Scientific Reports」で発表された東北大学大学院理学研究科と公益財団法人高輝度光科学研究センターによる共同グループは、海洋プレートを構成する鉱物がマントルの底に達したときの反応によって、地下約2900kmのマントル底部においてもダイアモンドが晶出するという説を発表している。