ジェムランドホームへ
HOMEYellowPage
 

18世紀のガラス製ビーズの価値

ガラス製のビーズは今日では、いくらでも入手出来るありふれたものですが、昔はとても貴重であったようです。仏教でいう七宝のひとつにも玻璃(はり)としてガラスが数えられております事からも、非常に珍しいものであった事がしのばれます。さて、長らく頂いた休刊期間中に読んだ本から、18世紀初頭のカナダにおけるビーズの価値を示す記述を見つけ、興味を惹きましたので紹介したいと思います。

この本は『カヌーとビーヴァーの帝国』(木村和男/山川出版社)。ビーヴァーの毛皮※を求めてイギリスやフランスの交易人達がカナダ奥地(ヨーロッパ人は東部のハドソン湾から入植したので、奥地とはカナダ西部)に進出していった様子を通じて、カナダ史を紹介したものです。必然として先住民との関係がひとつの主題にして綴られていますが、カナダに於ける先住民とヨーロッパ人の関係は、アメリカ、南米における両者の関係ほど過酷なものでは無かったといいます。これは、ヨーロッパ人がビーヴァーの捕獲や毛皮の加工方法を知らず、またカナダの厳しい自然で生きるための生活用品、 例えばモカシン靴の作り方を知らなかったため、先住民が優位を保つ事が出来た為であると同書は記します。つまり、先住民は強制的に毛皮を搾取されたのではなく、ヨーロッパ人から対価を得て交易をしたのですが、ヨーロッパの紙幣やコインなどが先住民にとって価値があるわけはなく、物々交換が行われました。

物々交換とはいえ、交換レートを設定する必要があったのでしょう。その単位は『MB』とされました。メイド ビーヴァーの略といいますから、『加工された(made)ビーヴァーの毛皮』の意味でしょう。同書に紹介されている1733年の1MB当たりの交易換算表によると、ビーヴァーの毛皮1匹分、つまり1MBに相当する色つきビーズは3/4ポンド、約340グラムでした。同じ1MBで交換できる他の物品を見てみると、弾薬は5ポンド(2.27kg)、釣り針は20本、真鍮製のヤカン1個、また貴重であったと想像されるピストルが4MBと記されておりますから、18世紀に於いてガラス製ビーズが高く評価されていたことが分かります。

現在ではあらゆる種類のビーズが廉価に入手可能ですが、これはいうまでもない事ですが、需要の増大と工業の発達により大量生産が行われるようになり、ガラス製ビーズの希少性が低くなったからです。歳月の経過と共にものの価値は変わり、宝石とて需要や供給によって価値が変動する訳ですが、宝石の持つ美しさは永続性があるものです。また多くの人にとって宝石は、それを見る度に、買ったり、あげたり、あるいはも

らった瞬間が変わることのない思い出として記憶を呼び覚ますものであろうかと思います。変化の激しい現代にあって、人には、環境に合わせて変わるべき部分と、変わるべきではない部分があるのでしょうが、私は“変わらない”ものに魅力を感じます。本年も、変わることのない宝石の魅力のお伝えすべく発行を続けて参りますので、宜しくお願い申しあげます。

※ビーヴァーの毛皮

17世紀初頭には人気が定着したビーヴァーハットに対するヨーロッパ紳士達の執着は現代では想像しにくいほどであったといいます。紳士は外出時には必ず帽子をかぶるのが常識でしたが、帽子は一番目立つものであるだけに、高価で美しいと考えられたビーヴァー ハットは富や権力の象徴として、中級官僚であれば給料の数ヶ月分を費やしてでも求めたものであったといいます。現代の女性が大きく美しいダイアモンドの指輪に対して抱く気持ちに似ていたのでしょう。

本稿は、宝石学の世界Vol.146より引用した

Posted :2003/02/12

                      


| ジェムランド | ジュエリー業界イエローページ | ジュエリーストア | ブックストア | B2B / 宝石卸売り |
| ジュエリーリフォーム | ホスティング | FAQ | ジュエリーニュース | ジュエリーコラム |
| 宝石のメールマガジン | ジュエリー大王 |

(C)Copyright 2000-2006 by FUKUMOTO LOGISTIC SYSTEMS, INC. All Rights Reserved. Contact us.